ゴミ屑リーマンキョンが誕生するまで~フレッシャーズ編 後編~
こんにちは、ゴミ屑リーマンのキョンです。大阪での1人暮らしも後半戦。今回はゴミ屑リーマンキョンが誕生するまで~フレッシャーズ編 後編~です。
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目次
【サキちゃん】
6月に入り雨が多くなった。今日は土曜日、久々の晴れだ。今日はサキちゃんと通天閣に行く約束をしていた。
大阪に来てから1ヵ月、スロットと飛田新地の他に、毎週末サキちゃんと観光をすることが日課となっていた。
USJや京都、奈良、神戸など、いろいろなとこに行った気がする。
正直、休みの2日間は両方ともスロットを打ちたかったが、こうやってサキちゃんと観光するのも楽しかった。
「こうやって歩いていると、なんだかカップルみたいだね。」急にサキちゃんがつぶやく。
僕は当たり障りのない返答をした。
自分で言うのもなんだが、サキちゃんは僕のことが好きだったと思う。
一方で僕も、サキちゃんとの生活が始まってから2ヵ月近く、最初こそただの同期としか見ていなかったが、次第に1人の女の子として意識するようになっていた。
だが、僕は怖かった。万が一この関係が壊れてしまったらどうしようとか、考えるのはそんなことばかり。
ずっと今の関係でいい、そう思っていた。
【一文無し】
大阪での生活にもだいぶ慣れた6月の中旬、僕は死にそうな顔で、大阪の激安スーパー玉〇に来ていた。
少し遊び過ぎただろうか?スロットでも勝てない日が続き、貯金は底を尽き始めていた。
1度、親に電話で頭を下げ、10万円を送ってもらった。だがその10万円も1週間ほどで消える。
ギャンブルや風俗は1度依存すると恐ろしいもので、嘘をついたり、生活費を削ってでも行こうとしてしまう。僕もそのうちの1人だった。
僕は口座から、最後の3万円を下ろし、バジリスク絆を打った。これが最後になることも分かっていたが、止まらなかった。
気が付くと投資も2万8000円。1回ATを引いたが、単発で終わったので、そのまま打ち続けていた。今日は6月15日。給料日まであと10日だ。
汗が止まらなかった。2000円は残して10日の生活費にするか、それとも残りの2000円にかけるか。2000円で10日過ごすのは無謀か?
パチンコ屋とは恐ろしいもので、中にいるとほんとに金銭感覚が狂う。
人間、地面に落ちた10円玉は拾うくせに、地面に落ちたコイン1枚は拾わない。そんな世界だ。
もう2000円の価値なんてわからなくなっていた。
僕は残りのクレジットボタンを連続で押した。メダルが100枚出てくる。勝てる希望はほぼない。まだジャグラーでも打った方が可能性があるんじゃないか?
そんな声は僕には届かなかった。僕は覚悟を決め、残りのコインでレバーを叩き続けた。
時間にして2秒くらいだろうか?何が起きたのかわからなかった。画面が真っ白になり、リールがゆっくりと回り始める。
やった。やったのだ。脳汁がダダ漏れしているのがわかった。こんな奇跡、もう起こることは無いだろう、そう思いながら僕は震える手で煙草に火をつけ、反撃の狼煙を上げた。
だか、幸せはそう長く続かなかった。プレミアムBC中の上乗せは無し、弦之介スタート、祝言は1つ、活かせず2連で終了。獲得枚数は350枚だった。
あまりにも残酷な結果に、思わず僕は笑ってしまった。下手したら日本最低記録じゃないのか?
ギャンブルにおいて確率というものはあくまで数千万回試行した上での確率であり、この確率から大幅にブレることだって確実にある、なんか妙に納得した出来事だった。
この350枚で僕はジャグラーを打っていた。僕は何をやっているんだろう?ここ2週間で15万くらい負けてる気がする。
15万あれば美味しいものも食べれるし、サキちゃんともっと観光もできた。ギリギリで理性ストップをかけたのか、僕は残った200枚を換金した。
【胃腸炎】
この4000円であと10日間耐えなければならない。まずは食材を集めないと。僕は死にそうな顔で近くの激安スーパー玉〇へ向かう。
ここではもやしが1円で手に入る。貧乏人には天国みたいなスーパーだ。僕は残り10日間のことを考え、慎重に食材を選び始めた。
給料日まであと3日間、残金はあと1200円。煙草はあと1箱しか買えないだろう。我ながらよくここまで耐えたと思う。
ここ数日、昼飯は抜いていた。夜はスーパー玉〇で買った29円のラーメン、そんな感じだった。明らかにサキちゃんが異変に気付いている。僕はダイエットだ、と嘘をついた。
サキちゃんにお金を借りることもできたかもしれないが、それだけは避けたかった。屑なりにも多少のプライドはあったのだ。
「あと3日耐えれば解放される。」体はすでに限界を迎えていた。
3日後、給料が入った。やっと美味しいものが食べれる。だがこの時僕は、胃腸炎にかかっていたのだ。
偏った食生活とストレスが原因だろうか?水を飲んだだけなのに下痢が出る。人生初の胃腸炎だったので、こんなに辛いものとは知らなかった。
仕方なく僕は水、木、金と3日間会社を休んだ。熱も38.5℃くらいまで上がり、下痢は止まらない。誰も助けてくれる人はおらず、ほんとに死ぬと思った。
土曜日になると、熱は平熱に戻り、少し体が楽になった。下痢もだいぶ収まったようだ。何か食べたい。体重も3kgくらい落ちた気がする。
この日の夕方、サキちゃんが僕の部屋に様子を見に来てくれた。玄関を開けると心配そうな顔で立っている。
「もうよくなった?心配したんだよ?」
外が暑かったので、とりあえずサキちゃんを部屋に入れる。
「買い物とかなんか手伝えることあったら遠慮なく言ってね!あとこれ、先週の研修内容。」
サキちゃんが先週の研修内容のレジュメを2枚渡してきた。A4紙に研修の内容がずらっとまてめてある。サキちゃんの字だ。
「これキョン君の分だから。」
サキちゃんはわざわざ僕の為に、研修内容をまとめてくれていたのだ。
スロットでお金を失った虚しさ、胃腸炎の辛さ、サキちゃんの優しさに、僕はちょっと泣きそうになってしまった。自分が情けない。
目の前にいるサキちゃんが愛おしかった。気が付くと僕は、サキちゃんを正面から抱きしめていた。
サキちゃんの体温が伝わってくる。髪の毛からすごくいい匂いがした。何のシャンプーを使っているのだろう?
「キョン君苦しいよ。」
サキちゃんの声で我に返る。自分でも何をしているんだろうと思った。少しだけ気まずい空気が流れる。
「スポーツドリンク買ってくるから!」そう言い残し、サキちゃんは僕の部屋から去っていった。
大阪に来てから2ヵ月、僕はやりたい放題を繰り返していた。欲望のままに打ち、買い、そして金を失う。しまいには病気になる。サルも同然だ。
いや、もしかしたらサルの方が賢いかもしれない。
この時期くらいから、少しずつ自身の問題について考えるようになった。本当にこのままでいいのか?何か大切なものを失っているんじゃないか?
でも、寝て起きては忘れ、またいつもと変わらない日常が始まる。そんなことを何百回と繰り返していた。
もうこんな思いはしたくない。せめて残りの1ヵ月、もう少しまともな生活をしよう。そう決意したのだった。
その後、大阪でスロットや風俗に行くことはなかった。また一文無しになるのが本当に怖かったし、サキちゃんへの申し訳なさもあった。
サキちゃんとは結局その後、恋人同士になった。会社では普通に同期として接し、アパートに帰ると恋人同士になる。今思うと、なんだか奇妙な関係だった。
【別れ】
7月中旬の土曜日、季節はすっかり夏だ。僕はサキちゃんと新大阪駅の新幹線ホームにいた。
長いようで短かった研修も終わり、全国にいる同期全員に新たな発令通知が出された。僕は、都内の部署に配属が決まった。
一方でサキちゃんは、今回研修を行っていた大阪の工場に配属が決まった。離れ離れになることはなんとなくわかっていた。
「すぐ会いに来てね…」サキちゃんが涙目で言う。
「心配しないで。」軽くキスを交わし、僕は新幹線へと乗り込む。
座席に座り1段落すると、この3ヵ月間での思い出が色々と込み上げてきた。初めて一文無しになったこと、飛田新地にはまったこと、サキちゃんとした観光。
辛いこともあったが、なんだかんだで結構、いや、めちゃくちゃ楽しかった。 1度破産したことも今ではいい経験だ。
ただ僕はこれに懲りることなく今後もギャンブル、風俗を続けるだろう。もう自分1人の力じゃどうしようもないことはわかっていた。
東京に戻ったら久々に、令、大介にでも会おうか?そんなことを考えていると、新幹線が動き始めた。徐々に大阪の街が小さくなっていく。3か月間ありがとよ。